2025/12/07 20:00
私が使っている「サドルステッチ」は昔から続いてきた手縫いの技法です。

左右から2本の針を通し、革の中で糸をクロスさせながら締めていく。
言葉にすると単純ですが、実際はとてもゆっくりで、手間のかかる作業です。それでも、この縫い方を選び続けています。
ミシンの縫い目は本当に綺麗で均一的(もちろん縫う人によりますが)。
スピードも精度もすばらしく、効率だけで言えば圧倒的です。
でも私はどうしても「どれも同じに揃ってしまう無個性さ」に少しだけ違和感を感じます。
どんなに美しくても、人が触れた痕跡がどこにも残らないように思えてしまうのです。

その点、手縫いのサドルステッチはとても正直で、一針ずつ力の入り方でわずかに変わり、完璧に均一とはなりません。
見た目は整っていても、手で触れるとどこか柔らかくあたたかい。仮に多少不格好だとしても私はたまらなく好きです。
ただこの縫い方には静かな厳しさもあります。
糸を「キュッ」と締める必要があるため指先に力が入り、特に冬は糸が食い込んで痛みを残すことがあります。
乾燥した時期は指の皮が割れたり荒れたり。

けれど、その痛みすら「今日もちゃんと縫えた」と教えてくれるサインのように感じるのです。
使う方には気づかれないほどの差でも、自分の指先はちゃんと覚えています。
サドルステッチをしていると、革の奥で糸が締まっていく感覚が指先から伝わります。
その一瞬が心地よく、針を進める手が止まらなくなることがあります。
当然ですが手で縫ったものは、どれも少しずつ違います。 でも、その小さな違いこそが、使う人の暮らしに馴染んでいく「余白」になると思っています。

もしATELIER SABOのアイテムを手にすることがあれば、ぜひ縫い目にそっと触れてみてください。
まっすぐ並んでいるけれど、どこかやわらかい。
手で縫ったからこそ残る、小さな温度がきっとあるはずです。 完璧でなくていいし、同じでなくてもいい。
そのわずかな差異が「あなたのもの」になっていく時間をつくってくれると信じています。
だから私は今日も、一針ずつ手で縫っています。
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